2019.7.

「こっちからもびゅ〜〜」


 大学が行っている地域貢献のための公開講座<親子で絵本を楽しもう>に参加した。いつもなら 20 組とか 30 組とかいう大勢の親子との読みあいが主流なので、わずかに 3 組という事前申し込み による限定講座に、私はどこか緊張。場所も大学内の「星の王子様」と命名された夢のように愛ら しいお部屋で、上品なふるまいを期待されているような気がして、ソワソワ落ち着かない。

 さて、やってきた親子さん。ふたりは 3 歳でひとりが 5 歳。3 歳の子どもたちふたりはお母さん の足に後ろからしがみついて、部屋に入るのをためらっている。「さあどうぞさあどうぞ」と部屋の 中に招き入れるも、幾分私の声はよそゆきでおしとやか。お辞儀をして部屋に入ってこられたお父 さんお母さんも、情操教育のために労を惜しまない真剣なご様子で、面展台に並べた絵本たちを早 速熱心にチェック。 手遊びをやって、ちょっとしたパペット劇をやって、『まるまるまるの本』(ポプラ社)へ。

 3 人の子どもたちの小さな指がおどる・はずむ・クリッククリッククリック。だんだん呼吸があっ てきて、『うしはどこでもモー』(すずき出版)へ。3 人の子どもたちはそれぞれに、牛になりきっ て、お腹から「モー」と鳴き声をあげる。最後のページで、そこまでに登場した動物たち、いぬ、 かえる、あひる、にわとりがずらりと並んでいるのを見て、3 歳の男の子と女の子がいっしょに前 へ出てきた。それは「よくみえるように」ではなく、全員集合という感じで自分たちも集まってき たという感じだった。その瞬間にお母さんたちが「ダメよ後ろに下がって、お行儀良くして」と制 されたので、あららと焦り、いつもの「物語の風」を吹かせた。「おやおや、公園から強い風がびゅ ??」と言い、子どもたちを風の力で後ろに下がらせようとしたのだ。ところが、その風を受けた 瞬間、子どもたちは、ぱあっと目を輝かせ四つん這いになると、そのまま思い切り「ふ???っ」 っと風を吹き返した。どうだ、風さん、僕らのほうがおっきい風を送れるよと言わんばかりも、得 意げな顔。 これまで、「絵本読みの時間の中で起きたことは、絵本の中の住人として対処しよう」と繰り返し言ってきた。子どもたちが前に出てきてしまった時も、「『後ろの人が見えにくいから、 下がってください』などと、絵本の世界から降りてこないように、なるべく、絵本の中の出来事と して受け止め、風がびゅ?っとか、海の波がざぶ?んと言うようにして、自然に子どもをもとの場 所に戻してあげましょう」とアドバイスしてきた。ところが、今回は、子どもたちも物語の住人と して風を押し返してきたのだ。絵本の中の動物たちになりきった彼らの息を浴び、降参しました。 「参りました。どうか、ぼくがもっと強い風になれるよう、もとの場所にもどっておうえんしてく ださい」というと、こっくりうなずいて、ゆっくりさがってくれた。読みあいの始まる前、いつも とちょっと違う設定に身構えていたところがあったが、そうかこの子たちは常日頃から目いっぱい 愛され、なにものにも向かっていける自分を育てている真っ最中なんだと、その明るい力強さに感 じいった次第。 まだまだ、修行が足りない私。これからも訪れるであろうウフフな出会いに、心を洗いなおした ひとときでした。

 




村中李衣


















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