2017.10.

「さんまの日」


 昨年,「サンマがベトナムの市場で人気」というちいさな記事を見つけて,ずうっとサンマ の一生のことが気になっていた。

 サンマのはねる姿が見たい。サンマの水揚げが見たい。サンマの売られる市場が見たい。サ ンマ,サンマ,サンマと叫び続けていたら,根室の皆さんから「そんなに言うんなら,おいで」 と言ってもらえて,もう有頂天! 9月に台風と競い合うようにして,北海道へ飛んで行った。 画家のこしだミカさんといっしょに。

 最初に全校生徒17名の花咲港小学校に出かけた。みんな,ふくふくぴちぴち,好奇心で心 が磨き上げられているのが良くわかった。どんな問いかけをしても,ひとりひとりが,じっく り真剣に受け止め,考えてくれる。「みんなにお願いがあるの。いちばんおいしいサンマの絵 を描いてくれる?」という頼みにも,二カッと笑って「まかせとけ!」。

 最後に先生たちに佐々木マキの『はぐ』を読みあってもらったら,ちょうど,小学校のすぐ そばにある花咲港をバックにしたような絵なものだから,夕日が沈む場面までみんな息をのん でうっとりみつめた。先生たちもその「うっとりのまなざし」の中に,ごく自然に溶け込んで いた。

 そのあと,今度は1年生から4年生まで200人を超える子どもたちの待ってくれている北 斗小学校へ移動した。ここでも,大勢の子どもたちなのに,みんながひとりずつの心の受信器 を育てているのがようくわかった。1年生には1年生のなんでも知りたい,確かめたいまっさ らの好奇心があり,4年生には4年生の,自分の知っている世界を何度でも新しくしたい,真 剣な好奇心がある。『キッチンでかんたんマジック』を読んでいくと,実験結果にみんな「へ ぇ???!」「なんでなんで?」と,知りたがりの心爆発。とうとう,全員が本の周りに押し 寄せてきて,私は体育館のステージに駆けあがらなければならなくなった。ステージの上から 吸いつくような400のひとみを見つめ,出会うってことは,本も人もこんなにうれしいこと なんだなぁと,しみじみ。ここでもまた「おいしいサンマの絵を描いてもらえないかな?」と 頼むと「いいよぉ!」の大合唱。頼もしい!

 子どもたちの何人かは,夜に行われた図書館での一般の方々に向けた講演会にも,シャンと 背筋を伸ばして参加してくれた。そして,「サンマはどうやって食べるのが一番おいしいです か?」の質問に,「そりゃやっぱり,ナマだな」ときっぱり答えてくれていた。ほんと,子ど もたちはみんな迷うことなく「ナマが一番」と,潮で洗われた岩のように堂々と答えてくれた。

 さて,そのあとのサンマ取材で出会った漁協の方々も紹介していただいた漁師さんも,チー ムを組んで対応してくださった図書館スタッフの方々も,市役所の方々も,どの人もどの人も, 他者に寄り掛からず他者を認め合いながら町とサンマを愛しておられた。このすがすがしい空 気と風をこれからどうやって作品に仕上げるのか,大きな宿題を抱えて戻った。「本は何日で できるんですか?」と50人くらいの子どもたちに聞かれたぞ。

 さぁ,どうする!どうする!


村中李衣















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