2014.12.

「ドラマチック商店街」


 毎朝自転車で通りぬける奉還町商店街。

 3月の下旬、夜八時過ぎに、新幹線から降りて、アパートへ向かうべく初めてこの商店街を通り抜けた時には、あまりに閑散としていて、わびしさに震えあがった。
1か月、2か月と朝夕通るうちに、この商店街の一日は朝七時に始まり夜六時を過ぎるとシャッターを閉める音がアーケードのあちこちで響き始め、夜七時にはきっぱり終了することが判明。

 江戸時代は城下町外れに位置し、明治時代になって失職した武士が藩から授かった奉還金を元手に始めた商店街だそうで、店主のほとんどが高齢である。
買い物客も同様に高齢で、セブン・セブンの商売は、理にかなっているというか体力にかなっているようだ。

 長く山口県に暮らした私としては、この商店街のぶっきらぼうさに何度もひっくり返りそうになった。
店内に表示されている事、店先に並べられている事以外の質問をすると、まず返って来るのは「はあ?」である。
「〜できませんか?」ときけば「できません」。
「〜はありますか?」「ありません」。
「気持ちだけ負けてもらえませんか?」「負けられません」

 この前なんか、寝具店でセールと書かれた籠に手を触れようとした瞬間、「それお客さんには入りません」、
広げてみるとフリーサイズの腹巻だった・・・どーゆーこと?
でも、文句も言いたくなるけど、おもしろくもある商店街だ。
朝から店先に「揚げたてサーターアンダギー」が山盛り。
帰りにみても、山の形がまったく崩れることなく「揚げたて」の看板が誇らしげ。
夏と冬で洋服のラインナップは若干変わっているけれども恐らく10年くらい仕入れの内容は変化してないんじゃないかと思われる洋装店。
ここの店主のおじさんの形相がなにしろ怖い。
喋っているところは聞いたことがないので性格とかはわからないが、とにかく怖い。
表情なく、朝店が開くと同時に店先に立ち、シャッターを下ろすその瞬間までいつどんな時でも店先に立ち続けている。
これだけ渋い商店街だと「リサイクルショップ」はどこが新しくないのかよくわからないし、骨董品屋も何が骨董なのかよくわからない。
そんな中で、朝7時からオレンジ色の暖かい灯がともってにぎやかなのは、「喫茶 FRIEND」..
自転車の速度を緩めて店内を覗くと、おじいちゃんおばあちゃんで満席である。
モーニングセット400円(と張り紙がしてある)で、朝のひとときグランドトークで盛り上がっているようだ。
毎朝、古びた布張りのソファに反り返るようにして笑い合うお年寄りの姿をドア越しに眺めながら、ここって時代に気後れしていないリアルな商店街なんだなぁと思った。
 この半年、50歳を半分過ぎてからの新しい街での独り暮らし。今まで「街の在り方」なんて、ただここは賑やか、とかここは寂れていると言うぐらいにしか感じていなかったけれど、その風景のひとつひとつを人間が作っているんだと改めて思い知らされた。

 いつかこの無愛想アーケード街のドラマを描いてみたいな。



村中李衣













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