2014.05.

「日常をつくる」


 なんてことのない、そのまんまの一日のことを「日常」と呼ぶのだと思っていた。

 でも、同じ時間に起き、あたりまえに朝の支度をし、ごくごく平均的な時間に通勤しても、ちっとも「日常」じゃない毎日が続いている。

 4月から始まった岡山でのアパート暮らしは、ひどく地味で、これといった事件をしでかすでもなく、淡々と過ぎつつある。
40年ぶりに自転車に乗って移動する大学とアパートの間には、寄り道の場所がない。
大学のスタッフと学生以外にどうでもいいようなことを話すひとがいないのは、ほんとうにさびしい。

 で、一番初めにみつけた寄り道の場所は、整骨院。
これは、ぎっくり腰のおかげ。

 次にみつけた寄り道の場所は、鍼灸院。
これは、ストレス性胃炎のおかげ。

 昨日見つけたのは、たこ焼きやさん。
常連客のおじさんに、「まぁ、ここにすわってゆっくりしていき」と声をかけてもらったおかげ。

 「おかげ」の寄せ集めで、どうにかこうにか「ぼっち」を尻尾から切り離した「ひとり」を保っている感じだ。

 こんな時、絵本はほんとにいいなぁ。
本棚に並んでいる本たちは、どれも、誰かといっしょに読みあった記憶をまとっている。
今日、授業で『ごぶごぶごぼごぼ』を開いたら、広場の床で赤ちゃんに読んだ日のことが、広場のにおいといっしょに蘇ってきて、泣きそうになった。
あの時、広場のスタッフがけらけら笑ってたよな。
読み終わって、黒豆のジュースご馳走になったよな・・・そういう幸福な記憶が、絵本の一ページずつを何重にも覆い、何色にも彩る。
これが、どこにいようと、わたしの消えることの無い「日常」。

 さて、でもそれは、決してよき思い出に逃げ込むということであってはいけないぞ。
新しい「日常」を、他者との関係の中で、やはりつくり続けていかなくてはね。

 来月号には、なにか新しい出会いや発見のエピソードを伝えられるといいな。

 待っててよね!
…と書いて下をみれば、まだまだ余白がいっぱい。
なんとかしなきゃ。

 今日見て、へぇ〜と思ったこと。
雨降っても傘をささずに自転車に乗っている学生たちは、みんな前かがみでスピードむっちゃ速かった。
雨降っても傘をささずに歩いてる学生たちは、みんな両手でスマホのゲームをしていた。
雨降っても傘をささずに歩いているりえは、傘を山口から持ってきていなかった。
とほほ。

 ではね。今度こそほんとうに、ではまた来月!!



村中李衣













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