2014.04.

「箱をあければ」


 岡山の大学に移って半月が過ぎた。

 授業はすぐに始まり、とりあえず、本だけは出しておかなければと、山積みの段ボール箱と格闘した。
とはいっても、研究室に備え付ける本棚がまだ納入されていないので、取り出せる本は限られている。
「即開封!テキスト」と朱書きした絵本と児童書だけを、はじめから置いてあった本棚にそっと並べる。
それでも600冊くらいは並んだかな?

 残りの本たちはずらりぞろりと、廊下に積み上げてある。
その数48箱。
落ち着かない。
「はよ出してぇや。うちら、りえさんの一番の味方なのに」
という声が聞こえてくる。

 そんな中、大学の図書館司書をしている友人のNさんが山口を発つ直前に渡してくれた段ボール箱4つを、まだ並べられないのを承知で開封してみた。
息子さんが小さい頃楽しんだ本たちだという。
児童書に詳しいNさんのセレクト、さぁてどんなんかなぁ〜と、授業準備にすでに飽きていた私は、興味本位で中を覗き込んだ。

 開いた段ボール箱の中、真っ先に飛び込んできたのは、月間絵本の1冊ずつに丁寧に書き込まれた「○○あきら」というサインペンの文字。

 届いてからの1ヶ月間、枕元で何度となく開かれたであろう絵本たちの手触りをわたしもなぞらせてもらった。

 それから、センダック、マクダーモット、エリック・カール、マーシャ・ブラウン、マーク・シーモント、マクロスキー…と、思い出深い海外の作家たちの作品が、きれいに並んで入っている。
そうだった、マーシャさんを大学にお呼びした時は想像以上の大入りでパニックになったなぁ〜とか、シーモントさんとマクロスキーさんを大学にお招きした時は、動物の足跡の型紙を作ってぺたぺた貼ったなぁ〜とか、本を介した幸福な日々が次から次へと溢れ出る。

 そうして、おお、さすが、この本もこの本もみぃんな大好きな本たちだ。
私のベストセレクションと見事にかぶってるかぶってる…
それもそのはず、Nさんが「こどものひろば」のブッククラブで購入した本たちだったのだ。
やっぱり、ブッククラブは最高だね。

 箱に詰められた1冊ずつを見るだけで、Nさんちのあきらくんがどんなに愛されて大きくなったかがようくわかった。
本の開かれ方、閉じられ方は、そこにいた人たちのまるごとの心を映す。
大事なものを託されたなぁと、この本たちがやがて並ぶはずの見えない本棚を見上げてつくづく思っている。



村中李衣













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