2014.02.

「絵本のぼうけんはじまりはじまり」


 東京が記録的大雪の日、欠航になる前にと、朝四時起きで無理矢理始発の羽田発山口宇部行き飛行機に乗り込んだ。

 おんなじような危機感に襲われた旅人たちで、飛行機の中は満杯。

 私の隣は、若いおとうさんと膝に抱かれたちいさな女の子。

 混み混みの機内。
おとうさんは、娘がじらし始めないかとかなり緊張しておられる様子。
離陸してすぐにおやつバックからキティちゃん模様のぺろぺろキャンディーを取り出し、「ほら、ほら、キティーちゃんだぞ。」

 小さな口にほおりこまれたオレンジ色のキティーちゃん。

「あ、あ、あたしがとけちゃう! とけちゃうよ〜」
とつい隣で囁いたら、目をくるりんとさせて、パッと口からキャンディーを出した。
「ふぅ〜、あぶなかったぁ」
とふたたびつぶやいてみせたら、くくくっと笑って
「だいじょうぶ。キティーちゃん、こっち」
と、包装紙のキティー模様を指差した。

 そのあと、女の子と私の「なんちゃっておはなしあそび」は、お互いの指や機内サービスで配られた紙コップや、ありとあらゆるものを使って、大フィーバー。
だんだんリラックスして来たおとうさんが
「この子今2歳7カ月です。毎晩絵本を読んでます。今のお気にいりは、え〜と、カバがいろいろ失敗する絵本で〜」
と語り始めた。
それでまたつい
「ぼく、しょうぼうしになれるやろか?」
「だだだっだ〜、なれへんかったわ」
と謳うように声にしてみた。
すると、おとうさんの膝の上で、身体の向きを右から左へしゅっと切り替え、大きな声で

「マイクセイラーさく。ロバートグロスマンえ。ぼちぼちいこか」
と叫んだのである。
(いきなりおはなしをはじめるんじゃ駄目。ちゃんと最初から、おはなしの扉を開けて)
というリクエストだった。
2歳7カ月には2歳7カ月なりのきちんとした絵本読みの心準備があるのですねぇ。

「いやぁ〜、いつも表紙の作者名から読んでいるので」
と照れ笑いのおとうさん、
「実は僕の夢は、早くこの子と『おしいれのぼうけん』を読むことなんですよ」
とおっしゃった。
こどもの広場のファンだそうです。
本日は、おしいれならぬ、雲の上のぼうけんでしたね。


ぼちぼちいこか
マイク=セイラー作/
ロバート=グロスマン絵/
いまえよしとも訳
偕成社 1200円+税
おしいれのぼうけん
ふるたたるひ/たばたせいいち作
童心社 1300円+税



村中李衣













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