2013.11.

「未来の算数」


 豊北町角島にあるちいさな小学校に行ってきました。
3年生5人、4年生5人、全部で10人の複式学級です。
4年生は、国語の教科書で「走れ」を読んでくれていました。

 さてさて、教室へ向かう廊下ですでに、「あ、来た! 来た来た!」というくすぐったい囁き声が聞こえてきました。

 あまりに愛らしい期待たっぷりの、疑うことをしらない表情に、つい上着を脱いで「手品」を披露することと相成りました。
「りえさんの右掌は500円玉がだ〜い好きで、500円玉ならどこにかくしても、すぐにその居場所をつきとめます」という手品。
種明かしはここでは致しませんが、こどもたちはみんな「うっひゃー!」「へぇ〜!」「なんでぇ?」の連発。
でも次第に自分たちで驚きを納得に変えるため、さまざまな知恵を働かせ始めます。
「こうやったらどうだろう」「「もしかしたら〜かもしれんから〜やってみようや」と、仮説・実験を繰り返し、ついにはタネを見破ってしまいました。
すごい。お見事。

 子どもたちには、外の言葉を決して鵜呑みにせず、自分でひとつずつの物事を検証していく力、社会の念の入ったウソを見破る力をつけてほしい。
そのためには、手品は結構有益だと思います。
でも、これに熱が入りすぎて、残り時間が少なくなってしまいあせっていると、3年生の男の子がパッと手を挙げて質問しました。

「りえさんは、いくつのときからお話をつくっているのですか?」
そこで、「君は今何歳ですか?と尋ね返しました。
「8さい」
「そうですか、では、手をだしてごらん」と言いながら、彼の指をひとつずつ折り曲げていきました。
「ここが今の君と同じ8歳だとして、次の年の次の年のまた次の年の・・・」
14回指を折り曲げて「はい、この年に最初の本を出版しました」。
すると、みんなが真似をして指を折り曲げ「わかった、22さいのときじゃ」
「そうです。みなさんが22歳になって本を書く人になったら、ぜひりえさんに読ませてくださいね」

 するとまたまたさっきの男の子が手を挙げ「今りえせんせいは何さいですか?」。
そこで「じゃぁ計算してね」というと、すごい勢いでみんな机から算数のノートを取出しました。
「22足す33足す78足す78引く78引く78」。
え〜わからん、もう一回言うてぇ〜などと言いながら、それでもやがて「わかった! 65さいじゃ!」ブッブー。

 大笑いの中、別れの時間がやってきました。
教室を出ようとした時、質問した3年生の男の子が傍らに寄ってきて「りえせんせい、あのね、ぼくがもしがんばって本を書く人になったら、りえせんせいは69さいだね。まだ、生きてるから、ぼくの本、見れるね」

 じ〜んとしました。
なんで私の歳なんか尋ねるのかなぁと思ったら、それって、彼にとってとっても大事な未来の約束のための算数だったのです。

 また、会いたいな。
きっときっと、22年後に!!



村中李衣













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