2012.11.

「ちょうどいいね」


 奈良県の香芝で、絵本の読みあいワークショップをしました。

 午前中は講演会で、いっしょに笑ったり考えたりしたひとたちと、午後30人くらいで行いました。
大人に向けた講演会でしたが、そこにちゃんと参加してくれた子どもたちが、午後のワークショップにもくわわってくれました。
ごく自然にです。

 子どもたちも出会ったばかりの大人といろんなお話をして、そのお話をヒントに自分なりに絵本をさがして相手のためのとびきりの1冊を選びます。

 小学校1年生のAちゃんは出会ったばかりのMさんと、絵本をまんなかにお話を交わしている時、キャメルの短ブーツをはいた細い足が、大人みたいにきゅっと交差してありました。
Mさんは絵本をまんなかにAちゃんとお話している時、黒いパンプスの足が、子どもみたいにパタパタ動いて、時折ひゅっとハの字になりました。
ほんの少し背伸びして大人の心に近づこうとしているAちゃんと、ほんの少し幼い心に戻ってAちゃんに近づこうとしているMさん。
それでふたりで、ちょうどいい読みあいの位置を探し当てたようなたのしさが伝わってきます。
遠くからながめていて、なんだかうれしくなりました。
ちなみにAちゃんがMさんのために選んだ絵本は『こんやはなんのぎょうれつ?』(ポプラ社)でした。
選んだ理由は「いろんなお化けが出てきて、私の声でいろいろに読んだら楽しんでくれそうな気がしたから」だそうです。

 それから、BさんとCさんの読みあいもすてきでした。
BさんはやわらかいCさんの物腰と、民話の手作り絵本を製作されていることを知って、わかやまけんの『きつねのよめいり』(こぐま社)を選んだそうです。
でもこのお話のラストを知らずにインスピレーションで選んだので実際に読み進めていくうちに決してハッピーエンドでないことに気づき、どうしようどうしようとドキドキしたそうです。
でも読んでもらったCさんは、「実は祖母の介護のことで家族中がどうしたらいいのかと迷い苦しんでいる最中でした。でもこの絵本を選んでもらってお話を聞いているうちに、あぁ、家族みんなで大事な<ひとりずつ>のために、いっしょうけんめいになる、それだけでいいんだ、と少し心が軽くなりました」とにっこり。

 絵本の読みあいって、ピタリと相手の傷を治す特効薬にはなれないけれど、痛みに自分を投げ出したりあきらめたりしないでいようと、ほんの少し身体を温めて「ちょうどいい」を感じさせてくれるものなんだな、と改めて思いました。

 香芝のみなさん、ありがとう!



こんやはなんのぎょうれつ?
オームラトモコ作
ポプラ社 1365円


きつねやまのよめいり
わかやまけん作
こぐま社 2205円


村中李衣













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