2011.07.

「本のおしごと」


 娘の通う小学校の図書室へ行き、ときどきボランティアさせていただいています。

 本の整理や痛んだ本の修理、季節ごとの棚替えや新しい本の受け入れなど、図書室のお手伝いするのは本当に楽しくて、おだやかな気持ちになります。

 さて先日も、今年の選書会で選ばれた本から《人気のあった本ベスト10》を集計しました。
休み時間に子どもたちがやって来て、わたしたちの(いえいえ、本の)作業している側から離れません。

「ねえ、これ、いつ入るん?」
「もう借りてもいいん?」
とのぞき込む子どもたちの顔、顔、顔。
「もうちょっとまってね」
と軽率にも答えようものなら、ある子が
「じゃあ、この本が読めるようになるまでここで待っとく。
 だって絶対一番に読みたいもん!」(ニカッ)。

 もうちょっとといっても・・・まだあと何日かはかかるよ、少なくとも・・・(苦笑)。

 大人だってね、こんな面白そうな本を目の前にして、読みた〜い気持ちを抑えて、子どもたちの「今」に応えられるように、がんばって作業しておるのですよ、はい。


 図書室の書棚の上に〈本のびょういん〉を設させてもらっています。
破れてしまった本はそこに入れられ、治療(修理)を待つのです。

 〈本のびょういん〉の中でも、特に重病なのが、ところどころページが抜けてしまっている場合です。
行方不明になったページを探しながら、丁寧にその本の物語を探りあてます。

 たった1ページ、だけど1ページ・・・

 日常の中で、「今日」という1ページが抜けてなくなってしまったら・・・

 わたしの人生の「あの日」という1ページがなくなってしまったら・・・

 それはきっと、今わたしがここにいるという「わたしのものがたり」が存在しないということなのかもしれない、そんなことを思い重ねながらの作業です。


 子どもたちに読まれもまれたあげく、背表紙がはずれかかったり、中身が散りじりになった本たち。
わたしは、その1冊1冊を、この本は子どもたちとどんな時を重ねてきたのかな・・・と想像しながら手に取ります。
年を重ねて継ぎはぎだらけになり、本としての魅力は失われていくのですが、それらのクタクタの本が、どうにも愛おしくなります。

 大人はくたびれ果てた本を前に
「もう、この本は廃棄だね・・・」
とねぎらいながら思うものです。
でも、子どもたちは
「この本、破れとるよ、また直してね。戻ってきたら借りるけえ」
と、今日もやっぱり1冊の本の明日を思うのです。


平井和枝













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