2011.05.

「ともだち」


「かあちゃん、遊びに行って来るね〜」
 そういいながらもう、体は半分外に出て自転車へ向かっています。
 自分の足代わりに自転車を使えるようになってから、ぐんと子どもたちの活動範囲が広がりました。
6時間授業を終わって家に帰りつくのは5時少し前、それなのに宿題を抱えて友達の家に行き、おしゃべりし、自転車で街を散策、帰宅時間ぎりぎりまで遊びまわります。


 けれどその日、18時半になっても娘は帰って来ず、心配で外へ出てみても姿は見えません。
友人宅へ連絡。
すると娘は、帰り支度をしているときに鍵をなくしたことに気づき、探しに行ったといいます。
 18時45分。
 あたりはすっかり夕暮れ深まり、不安を掻き立てます。
 先日小学6年生の男の子3人が、川遊びをしていて流されてしまい亡くなるという痛ましい事故が起きたばかりです。
わが家の周りは海も川も近く、心配すればきりがありません。
 19時。
 別の友人宅へ電話して、今日みんなで行った場所を聞いてみようかと思った矢先・・・
自転車に乗った娘が帰ってきました。
 安堵と怒りが入り混じる気持ちを抑え、娘の言葉を待ちました。
「鍵をなくして、ずっと今日行った道を走ったけど、見つからんで、交番に行ったけど落としものにも無くて。」とうつむきました。
「一人で探したの?」
と聞くと、
「いや、Mといっしょに」
というので、Mちゃんも帰りが遅くなって心配をかけたに違いないと思い、あわててMちゃん宅へ電話をかけました。
 Mちゃんにも、親御さんにも、迷惑をかけたことをお詫びし、一緒に探してくれたことにお礼を言いました。
 すると最後に、Mちゃんが言いました。
「おばちゃん。ゆらちゃんのこと、怒らんであげてね」
 その言葉を聞いて、力のこもっていた気持ちがふにゃふにゃとほどけました。


 失くした鍵を探しあるき、交番にまで行き、見つからないまま帰宅するなんて、子どもたちにとっては不安と悲しみの1時間だったことでしょう。
 そんなことを、Mちゃんの一言がなければわたしはきっと気づかずにいたのだと思います。


 ともだち。
かあちゃんでもとうちゃんでもなく、ゆらの苦難をともにしてくれる人たちとの出会い。
ひたすらに成長とその喜びを感じる出来事でした。


平井和枝













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