2011.04.

「時を越えて」


 震災から間もなくふたつきが過ぎます。

 長く辛い日々が続く中で、被害にあった小学3年生のある少女のことが思い出されます。
震災から1カ月がたったある日、少女は避難先から両親とともに自宅のあった所へ初めて足を踏み入れました。
そこにあった景色は、無残にもすべてが流され瓦礫と化し、暮らしていた地域も通っていた学校も、完全に崩壊していました。

 原型のない学校の前で涙を流す少女に、かつて同じ小学校に通っていた母親が校歌を歌い、娘さんを励ましました。

 子どもの心にどれほどの悲しみが覆い尽くしていることでしょうか・・・。
けれど、形あるものがすべて失われてしまった耐えがたい悲しみの中にあっても、時をつなぐ大切な歌があるのだということに、ひとすじの光を感じました。



 そんな中でも、知人に赤ちゃんが生まれたと聞き、少し明るい気持ちになります。

 こどもの広場へお祝いの絵本を選びに歩く道で、娘とおしゃべりしながら
「どんな本を選ぼうかな〜、ゆらが小さい時読んでもらった本でなにかおぼえてる?」
と尋ねてみました。

 すると
「う〜ん、あれ、ぼさぼさの木とかもつれた毛糸をちょきちょき、ってするやつ、『もじゃもじゃ』やったかな」
と思いだして言うので・・・とたんに、わたしの思い出モードにスイッチが入りました。

「そっか〜! あの本か〜、なつかしいね。るるちゃんの、ちょきちょき、ね!」
・・・いっしょに何度も何度も読んだ絵本、そして絵本とわたしたちを包むあたたかな空気を思い出し、なんとも嬉しくなりました。



 春、生き物たちが伸びやかに美しく育つ季節。
 わたしは小学校の補助教員として、今年新たな一歩を踏み出しました。
 子どもの感性をみがき、育てる、それは素晴らしい職業であると感じています。
 子どもたちの明日という日に希望を手渡し、毎日を大切に過ごしていきたいと思っています。

 ・・・そんなわたしの想いを知ってか知らずか、ひろばで好きな本1冊を買ってもよいと許された娘が、数ある楽しげな本の中から選んだのは、鹿島和夫さんの『せんせいあのね〜ダックス先生のあのねちょう教育〜』という教育書でした。

 今も、わたしの隣で読んでいます。
娘とのなんだか不思議な空気が漂います。


平井和枝













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