2019.6.

「見守る」

 国道沿いを車で走っていた朝、可愛らしい玄関先にいろんな植木や草花がわが世の春のように好き勝 手に伸びている家の前でちょうど信号にかかった。ご夫婦らしいお年寄りが二人で洗濯物を干しておら れて、仲がいいなあと見つめてしまった。旦那さんがバケツから一枚のシャツを取り出す。奥さんがゆ っくりシワを伸ばすようにして竿にかける。その時旦那さんは奥さんの伸ばした脇の下を支えるように 手を伸ばしているが、奥さんは気づいているのかいないのか。振り向いて次の洗濯物を要求するように 旦那さんを見つめている。無言のチームはお互いがお互いを必要としながら見守りあっているように見える。

 その後、小学校に「選書会」のために行った。体育館で高学年の時間が始まった時、足にぐるぐる巻 きの包帯をしてものすごく不自由そうに松葉杖をついている女の子がいて、先生がその子のために椅子 を用意し、クラスの女の子が二人つきっきりで見守っていた。まだ松葉杖にも足の痛みにも慣れていな い様子。ところが休み時間、小走りで小さな男の子が入ってきた。女の子のそばに一直線に駆け寄ると、 ぐるぐる巻きの足を優しく撫でながら何か話している。今までチョット痛そうに肩をすぼめていた女の 子が急にお日様みたいな笑顔になり背筋を伸ばした。しばらくそこにいた男の子はまた走って出て行っ た。「弟なんです。心配して休み時間のたびにお姉ちゃんのところに来るの」先生が愛おしそうにその子 を眺めながら言われた。まだ一年生くらいの弟がお姉ちゃんのケガを心配して、授業が終わるたびに教 室から走り出て、お姉ちゃんの様子をみにくる。その優しい見守りはきっとお姉ちゃんの支え。

 40 年前「こどもの広場」という名前をつけて 1 人で始めた子どもの本屋。自分では頑張れば大抵のこ とはできると思っていたけれど、実際は出来ることはちょっとしかなく、オープン当日から数冊の本の 値段を計算するのにモタモタし、プレゼントに包装もと言われて何回やっても綺麗に包めず、オロオロ していた私。気がついたらお客さんが自分でテキパキと計算機で計算し、袋状になった包装紙が何枚も 出来ていて恥ずかしいやら嬉しいやら。「ありがとう。助かった?」という私に「みていられなかった! 横山さんが面白くて!」っと笑って言ってくれた。始めて出会った人の見守りと心遣いで子どもの本屋 は始まった。あたたかい眼差しにそれからズーッと今でも支えられている。




横山眞佐子











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