2016.11.

「一瞬」

 11 月なのに妙に暖かい早朝、高速を山口方面に走っていました。朝霧が立ち込め見通しのきかないカ ーブを曲がった時、急に霧が晴れ、一筋の太陽。反対車線の山側にある木々は紅葉も終わり・・ちらり と目をやって「なんじゃ?これ?」何本もの木の枝に白い布のようなものがかかり何かのお祭り?と前 方不注意ながら、思わず見てしまう。しかしその一瞬後にそれはえだ枝にかけられたいくつもの蜘蛛の 巣に朝露がつき太陽の角度で輝いていたのが分かりました。

 白い布が宝石のようのキラキラ光る一瞬はすぐに見えなくなり、後はいつもの中国自動車道。 「オレ本は読まん!」選書会の時ある学校で6年生の背の高い男の子がわざわざ私に言いに来ました。 そしてそばにあった本をドンと叩いて「こんなんのどこが面白いん?」。あくまで悪い自分を見せようと 一生懸命。「メッ!」と私が言うと「メッって目の事?」なんてふざける。本を叩いたその手を取って「メ ッていうのはね、こうして悪い手を叱る事!」と甲を厳しくつねりました。その瞬間握っていた手から フニャっと力が抜け、私の手の中に預けられ「痛くなーい!」と言いながら叩いた本を握って読みに行ってしまいました。一瞬間の心の解放。

 『空が青いから 白をえらんだのです』 奈良少年刑務所の受刑者たちの更生のために作られた社会性涵養プログラムの一環として、作家の寮 美千子さんがしてきた授業「詩を作る」。普段ものを言わない A 君が初めて書いた一行の詩。この詩を朗 読した後堰を切ったように、今年七回忌を迎えるお母さんの思い出を語り始めます。お父さんからいつ も殴られていたお母さんが病院で最後に言ってくれた言葉が、「つらいことがあったら空を見て。私はい つもそこにいるから」だったと。それを聞いた他の受刑者たちが、口々に A 君の辛かった気持ちに寄り 添う言葉をかけ始めます。一行の言葉が一瞬でそれぞれの心に届き、自分のことと重ねて心の扉を開い たのだと寮さんは言います。

 美しい蜘蛛の巣を一晩中作っていたクモ、反抗の表現の裏の柔らかさ、孤独な寂しさを青と白の中に 表した少年。一瞬の輝きは、それを作り出すための重かったり、長かったりの時間があったことを知り ました。




横山眞佐子











一つ前のページに戻る TOPに戻る