2013.12.

「忘れないで」

 友人から宅配便が届いた。
福島県石巻市「白謙蒲鉾店」の笹かまぼこだった。
お礼の電話に「忘れないで欲しいからね」と笑いながらの返事。
「忘れないで」は長く会っていない自分のことではなく、カマボコを作りつづけている石巻の人たち、いまだ、普通の日常が取り戻せていない東日本の現状のことだとハッと気づく。

 友人は展覧会の絵や彫刻の展示のプロであり、私は20年来いろいろなところでお世話になった。
2011年10月から仙台文学館で展覧会をすることになり、ここでもすべての展示を引き受けてもらった。
友人のふるさとは石巻。
高齢の両親の住む家は半壊。
半年経ってもまだ津波地震、原発の被害の生々しい中、何度も東京から戻っては片付けをしてきたらしい。
その時嬉しげに「シラケンの笹かま、お土産にしておくれ」と言われた。
地元の人にとって津波から一ヶ月後にはもう営業を再開して立ち上がった名物カマボコ。
小さくでも大きな誇りだったのだ。

 忘れないで覚えておくこと。支え続けること。
簡単そうでむつかしい。

 すでに、あの東日本のことを思い出すのはテレビから流れる「はながさく」の曲が流れるときだけ。
時折報じられる福島第一原発での進まぬ事故処理のこと。
家だけではなく村全体を失った浪江町、双葉町、大熊町、そしてその周辺の村や町。
もうすぐ3年。
忘れてはいないだろうか。

 このところ「特定秘密法」のことを見聞きしない日はない。
でも、法案は国会を通過、案ではなくこれからは法になる。
次第に私たちの目や耳に届かないところで何かが決まり、忘れてしまった頃に、とんでもないところに私たちは立っていることになるのではないか。
戦争を体験していない多くの私たちは、密かな足音を聞き分ける体験はない。
だからこそ、今起きていることに目を凝らし、過去のこと忘れないでいないといけない。

 子どもの頃に、読んでもらった本の絵、言葉。
大切な大人が一生懸命教えてくれたこと。
親子でいった野山。
流れる海峡。
全て誰かから誰かへの「忘れないで」の贈り物ではないか。
新しい2014年を前にあなたは何を贈りますか?



横山眞佐子











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