2012.04.

「思春期」


 桜も終わりかけた昼下がり、友人と外出中の道路で、歩道に倒れている少年を発見。
先に救助に立ち止まった男性二人。
どうやら自転車での転倒のよう。
お節介な私たちも思わず車を停めてみた。
まだ幼い顔の少年は脚が痛いと半泣き状態。
なのに名前も住所も連絡先も言おうとしない。
「いい!」と言って口ごもる。
おばさんたちは根掘り葉掘り。
膝頭をひどく打ったようで、病院にいくしかない。
なんとか、お母さんに連絡を取りたい。
転倒と痛みで動転していたが、だんだん落ち着いてきて、とうとう学校や自宅の場所を話し始め、病院に行くことも納得した。やれやれ。
自宅から自転車でくるには結構の距離。
その時、彼がすがるような顔で言った。
「お母さんには知られたくない。病院にいったこと内緒にしておける?」
そりゃー無理でしょう。
怪我も少しひどいし、包帯なんか巻いていて内緒になんかできるはずない。
「コンビニで買って自分で巻いたことにしたらだめ?」
「お母さんが怒る」ということと、「お母さんが心配する」ということが理由。

 怒るお母さんに対して子どもはなす術がない。
だから痛みをこらえて、黙秘権を使っていた。
中学二年生、なんでもかんでも親の目の届くところにいた小学生時代と違って自立しようともがき始める13歳。
親に知られたくないこと、内緒にしておきたいこと、ダメと言われても、友達の方が大切で行動してしまうこと。
みんな子どもが成長して行く途中におきる出来事。
でも、その事がわかったら親が、とくにお母さんが心配することもまた知っている。
親に心配かけたくないという心も育っている。
そんな子どもの成長を親はなかなか受け入れられない。
理屈ではわかっていても、危険からは遠ざけたい、自分の目の届くところにいて欲しい。
秘密なんかもたないで、素直な子どもでいて欲しい。
この子のことなら私が一番知っていると思いたい。
たいていの母親はこう願っている。
だから、きっとこの子の親も
「何で、お母さんに言わずに、こんなところまで自転車で来たの!!!」
と怒るに違いない。

 そういえば、ずいぶん昔息子が同じ年頃のころ、車で配達に行っての帰り道、家から30キロも離れたダム湖近くの国道を、子ども達三人が連れ立って自転車で走っているのを見かけた。
中の一人は我が息子ではないか!
三人は私には気づかず、楽しそうに自転車をこいでいる。
カゴに魚釣りの竿が入っていた。
ダム湖まで、釣りに来たんだ。
ここまでの道は車多い、途中危ないところもある。驚いた!

 帰って問い詰めるべきか、息子が言うまで黙っていようか?
悩んだ挙句知らん顔することにした。
お母ちゃんの期待をちゃんと裏切って、そのままその日のことは内緒のままだった。
小さい子どもだと思っていた息子が大人の仲間入りしたと思った、ちょっと寂しい事件だった。
何もかも分かっているなんて大間違い。
分からなくても、知らないことがあっても、大丈夫だと信じ切ることは難しい。
思春期の子どもは「目は離せ、心は離すな」という言葉を聞いたことがある。
けがした少年、お母さんに叱られないで、「無事で良かった」といってもらえたかな?


横山眞佐子











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