2011.12.

「事件」


 ミステリーが好き。
小学生の時以来、様々な謎解き本にはまってきた。
ところが、自分の身に事件が降りかかるとは思ってもみなかった。
先日夜自宅に帰ると、玄関の門の内側に見慣れぬ黒い大きなな袋が置かれている。
今ではもう下関では使われないゴミ袋。
しかもなんだか悪臭がする。
「バラバラ死体か!」と気味悪い気持ちより探偵心のほうが掻き立てられ袋を開けてみると、中には大量の汚れた大人用紙オムツ。
「嫌がらせ」そう思った。
誰が何故? 考えればだんだん気持ちわるくなってくる。
こんな時代、何が起きても不思議はない。
あれか、これか? 明日の朝には警察に届けよう。
そう思って休んだが、朝起きて家人に話をしたら、実は数日前のゴミ収集の日に集積場所に出してあり、そのまま回収されずにのこされていたのが判明。
それから二日後のことだったのだ。
考えてみた。
我が家は長い険しい坂の上のほう。
一番てっぺんにゴミ集積場。
坂の下から重い生ゴミを持ってくるのは大変だ。
この大量のオムツは丁寧に一個一個畳んで入れてあった。
どなたか、これを使った人と片付けた人がいる。
自宅で介護。
私の家からゴミ集積場まで運ぶだけでも何度も休みながら引きずるように持って行かなくてはならなかった。
もし、介護する人がお年寄りだったら?
せっかく持っていったのに、収集してもらえず、残されている。
持って帰ろうとしたけれど、ついに力尽きて、我が家の門の中に置いてしまった。
そんな光景が浮かんでしまった。
自宅で介護はきっと、どんなに心優しくても折れそうになることがあるにちがいない。
生ゴミはピンクの有料ゴミ袋へ、といつのまにかルールが決まった。
でも、慎ましく暮らしている家に前からの黒い袋が残っていたら、年配の人はもったいないと思うかもしれない。
もし、老老介護だったら、そんなことかまってはいられないのではないか。

 3月の震災の後友人が話してくれた。
松島の年老いた両親が被災し、三週間後に家の後片付けをしに行った。
なにもかもがめちゃくちゃになり、海水に永く浸かっていたため家具も畳も床板も、全て取り除かないと生活もできない。
75歳を越えた友人も仕事のある身、時を惜しんで、家から一番近い畑へとにかくそれを運んだという。
すると、通りかかった役所の車から降りてきた人に、「そこに出しては困る。ルールだから、道路に出してくれないと運んで行けない」と言われたと。

 「ルール」は人間が決めるのだからこそほんとうは、少し弱くなったり、幼かったりして、自分だけでは全部はできなくなった人たちのことも考慮する、ルールでしばられない関係もつくっていかなくては。
それが想像することではないかしら。
とくに非常事態の時には、と探偵は事件を穏やかに納得したのでした。


横山眞佐子











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