2011.06.

「子どもの時」


 食卓の上の真っ白な小さな皿に木いちごの真っ赤な実が20個ばかり入れてある。
母がニコニコしている。
「崖のところになっていたから、背伸びしてとって来た。美味しいよ」
まだ沢山あったけど、手が届かなかったと残念そうに言う顔は小さな子どものようだった。
母86歳。
3ヶ月振りに自宅から腰を上げて、同じ年の友人と音楽と食事を楽しみに行って、駐車場の崖に生えているイチゴを発見したらしい。
幼い頃、道ばたの草や虫はみんな友だちだった時代がある。
その時味わった素朴な味は時をへても忘れてなかった。

 道端でおじいちゃんが男の子の前にしゃがんで草笛を吹いてやっている。
子どもも真似して草を口にくわえてフーフーやっているがもちろん音は出ない。
おじいちゃんが自分の舌をだしてどうやって草を押さえるのか見せてやる。
でも子どもには出来ない。
悔しそうな子どもに、ちょっと得意そうなおじいちゃん。
きっといつか出来るようになる。

 「こどもの広場」に遠方から来られたお客様のご年配の女性達。
ちょうど遊びにきていた近所の小学生の女の子たち。
ひろばのおもちゃコーナーから散らばったお手玉を何気なく拾ったお客様が
「おーさらい、おひとつおーいておさーらい」
と歌いながら遊びはじめたとたん、女の子たちの取り囲まれ、
「教えて、教えて」。
とうとう子どもと大人は住所を交わし合い、お手玉を作って送ってもらうなどという素敵な約束までとりつけた。
長い間遊んでなくても、子ども時代たっぷり遊んだ歌も遊び方も忘れていない。

 「子どもの時、『エルマーのぼうけん』と『すてきな三人ぐみ』と『ルドルフといっぱいあってな』が大好きでした。
 まだあるのかなあ?」
選書会で伺った小学校で中堅先生に言われた。
「『ジキル博士とハイド氏』恐くて私も子どもの頃眠れなくなりました。
 これ絵本になったらもっと恐いですね。
 でも人間の心って何だろうと思いましたよ」
と高学年の子どもたちにブックトークで絵本化されたこの本を紹介したあと、私に話して下さった先生。
子ども時代に読んだ本が今もちゃんとその人のどこかを担っている。

 子どもの時・・・どんな今日を過ごすのか。
それは大人の責任でもある。

 毎日出かける小学校で出会う子どもたち。
パペットのアッチは毎年大人気だけど、なでてくれる子と叩きまくる子ども。
なぜ?って思う、どんな今日だったの?


横山眞佐子











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