2015.10.

「決まってる?」


 9月半ば、沖縄の普天間第二小学校で子どもたちと絵本を読みあう機会をもらった。

 忘れられない1冊となったのが、『ライフタイム』(ポプラ社)だ。

 最初のうちは、本の語り掛けにそって、トナカイのつのは何回はえかわるのかな?とか、カンガルーは一生のうちに何回赤ちゃんを産むのかな?とか、ワニの歯は何本あるのかな?と問いかけ、3択クイズで、子ども達に正解を予想してもらいながら読み進めていた。

 クイズの答えを予測しながら、正解を知って、「やったー!」とか「え〜!」と大騒ぎ。
ここまでは、予想の範囲内。
ところが、動物たちの知られざる生態が、数字になって次々に明かされていく中で、子どもたちの中から「え〜、それって決まってるの?」「ほんとうにみんなそうなの?」というささやき声が生まれ、そのささやき声が次第におおきくなっていった。
そして、終わりに近づき、アゲハチョウの登場。
「アゲハチョウは一生でミツを吸う花の数が決まってるんだって」と私。
へぇ〜という顔の子どもたち。
「さて、何本の花からミツを吸うのでしょうか?」
子どもたちはざわめき、「100本」「500本」「900本」という三択からてんでに予想をたてる。
「はい、正解は900本でした」。
わぁ〜っという歓声。
その時、前の方に座っていた一人の男の子がちいさな声で言った。
「でも、ぼくがアゲハチョウを採ったら、どうなる?」となりに座っていた子が「900本、吸えないままだ」とこれまた小さな声でつぶやいた。
私はおおきくひとつ息を吸い込んだ。
「大事な発見です。そのとおりですね。なんにもなかったら一生のうちに900本の花と出会うことができるけれど、途中で人間に捕獲されると、その数にはならないですね」。
するとざわめきと共に「たいへんだ」の声が遠くからもれた。
「決まっている」として示されたのは、ひとつずつの生命が持つ本来の「生きるさま」。
でも、それを阻む要素はいくらもある。
「決まり事」ということばにまどわされずに、ちょっとまてよと考える子どもたちのしなやかな読みの力に心が動いた。

 絵本読みを終えて、屋上に上がると、今まさに基地に戻ろうとするジェット機の耳をつんざくような轟音。
教室で、防音のために締め切った窓を開けエアコンを切る春から夏へのわずかな季節、この小学校の子どもたちが感じる外の世界は、木々のそよぎや鳥のさえずりではなく、やはりこの轟音なのだという。
子どもたちはのびのびと幸せに生きる権利があり、それは全力で守られる・・・
これも決して決まりごとではなかった。

 『ライフタイム』、動物たちだけでなく、人間のライフタイムも今一度真剣に数えなおしてみたいと思った沖縄の旅だった。




ライフタイム: いきものたちの一生と数字
ローラ M.シェーファー(文)
クリストファー・サイラス・ニール(絵)
福岡 伸一(訳)
ポプラ社 \1500+税



村中李衣















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