2015.01.

「読みあいファミリー」


 昨年春から1年間、山陽小野田市立図書館主催で市内のあちこちで読みあいのワークショップを重ねてきました。
1月の読みあいでのちいさくてあったかいエピソードです。

 読みあいペアになったふたりは、ぐうぜん同じアパートの住人さん同士でした。
ひとりは、赤ちゃんの妹とお母さんといっしょに参加してくれた可愛い女の子。
もうひとりは、おひとりで暮らしておいでだというご婦人。
二人の年齢差は70歳くらい?

 相手にぴったりな絵本を選ぶために情報収集する<絵本のたんていタイム>の間、ふたりは終始にこにこ。
ふたりとも、言葉をゆっくり選び、ゆっくり答え、その言葉をまたゆっくり受けとめて、にっこにこ。
その様子を赤ちゃんとお母さんも、少し離れたところで楽しそうに見てくれています。

 さて、女の子がご婦人のために選んだ絵本は『バルバルさん』(福音館書店)。
そして、ご婦人が女の子のために選んだ絵本は『ゆかいなかえる』(福音館書店)でした。
ふたりで、おでこをくっつけるようにして開かれた画面をみつめ、そこに記された文字をゆっくり声に出し、うなずきあっています。
まるっきり孫とおばあちゃんだなぁ〜と、ながめていました。

 読みあいが無事に終わり、振り返りの時間になりました。
「どうして『バルバルさん』の絵本を選んだの?」
と聞いたら、女の子はテーブルにほっぺたをくっつけるようにからだをくねらせ、ふふふふっと笑った後で、じいっとペアのご婦人をみつめました。
それからもう一度ふふふふっと笑って
「ようちえんで読んでもらって、すごくおもしろかったから」
と答えてくれました。
思えば床屋のバルバルさんと、そこへやってくる愉快なお客たちの互いを信じて身を任す屈託ない関係って、このふたりの関係みたいかも、とこっそり考える私。
それはさておき、理由を知ったご婦人は
「まぁ、ありがとう。私もすっごくおもしろかったわ」
と満足そうにうなずかれました。
そして、
「私は同じアパートでいつもご家族みんなでにぎやかに笑ったりおしゃべりしたりする声が聴こえてくるのがなんともしあわせそうで、このかえるさんたちの元気な姿に重なって見えたものですから。
なんていいましょうか、ファミリーっていう感じで・・・」。
ご婦人の口から出たファミリーということばは、狭い意味の家族を越えたおおらかに生きあう共同体をイメージさせてくれました。
私が口を開くより先に赤ちゃんを抱っこしていたお母さんが「〜さんもいっしょのファミリーです」とおっしゃった。
ご婦人が「ありがとう」って。
そんなお母さんとご婦人を代わる代わるに見上げて女の子も小さな声で「あ・り・が・と」って。

 自分が読んでもらった楽しい経験をペアになった相手にそのまま迷わず差し出そうとした女の子の心と、隣人の日々の暮らしを愛おしみその愛おしみを迷わず物語に載せて差し出したご婦人の心と。
読みあいでふんわり繋がった瞬間に立ち会えました。
企画してくれた図書館のみなさんにもいっぱい感謝!!
この人たちも私のファミリーだわ。



村中李衣













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