2013.03.

「卒業するっていうことは」


 卒業のシーズンを迎えました。
今年は、自分の勤務する大学での卒業式だけでなく、東京に出ていた娘の卒業もありました。

 2月末に山口に戻ってきていた娘は、また上京すればお金がかかるから卒業式には出ないといいます。
 まぁせっかくだから写真くらいは撮るかね、という話になり、それらしい服に着替えて出てきた娘は、手に卒業証書の代わりに、本を持っていました。
「自分の持ち物の中で一番私らしいものといっしょの方がええじゃろ?」と言って。

 その言葉を聞いて、ふっと武田光司の写真集『学校って、ええもんやでぇ』(木耳社)を思い出しました。
世界中を旅して回る途中、インド・カンボジア・タイ・ミャンマー・ネパール等13の国で出会った子どもたちの学校での集合写真をまとめたもの。
学ぶ環境の豊かさはまちまちだけれど、どの国の子どもたちも、みんなといっしょに学べることの喜びに満ちた笑顔でいっぱいでした。

 子守りをしながら学校に通っている子がいるからでしょう、集合写真には抱かれた赤ん坊もいっしょに写っていました。
素足の子どもたちもいっぱいいました。
その中でいくつかの小学校の子どもたちが、教科書をしっかり持って写っているのが印象的でした。
「見て!ぼくらの教科書だよ!」という輝くような誇らしいメッセージが聞こえてくるようでした。

 成人式も卒業式も見分けがつかないきらびやかな衣装を身にまとい、イベント化した時間の中で戯れる若い人たち。
それをどこかヨイショして、お金儲けの餌にしているような日本の社会。
卒業式シーズン、ファミリーレストランのランチタイムには、式を終えた親子のグループがいっぱいで、花やら卒業証書やら、お祝いの品々をイスに積み上げ、おしゃれなメニューを覗き込み、おしゃべりの花が咲き乱れる。

 それはそれで、晴れやかな楽しいひとときには違いないのだろうけれど、今在る自分の前と後を繋ぐ「卒業」の時をどう迎えるのか、それをどう見守るのか、大人も子どもも、少しいっしょに考えてみる機会がつくれたらなぁと、思います。

 ところで、娘が手にした1冊はWuthering Heights(嵐が丘)でした。
「ふぅん、さすが、英文科やね」と言ったら、「ふふふ、激しい恋に生きた大学生活ってことで…」ですって。は?




『学校って、ええもんやでぇ』


武田光司/著
木耳社/3990円


村中李衣













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