2013.01.

「その声、そのあなたで」


「自分の声がきらい」という学生がとっても増えた。
授業中、教室で発せられる声は、ほんとうに消しゴムでこすりあげてめくれた紙のカスみたいだ。
今すぐ風で飛ばしてくれというように。

 でも、だ。彼らの内側にはもっとゆたかな声が生きていた。

 「感性トレーニング」という授業で、リスナーからのハガキに答えながら各自がひとつのラジオ番組をつくり録音していった。

 録音という行為には緊張しながらも、なぜか、マイクを通し、みえないリスナーに向かって語りかける声は、晴れ晴れしていた。

 Mくんは、日頃何をきいても「え〜、いやっすよ」とつぶれたような声で不平をもらすのだが、ラジオのパーソナリティになった彼は、ゆっくりと、ことばをてのひらで起こして行くようにして、語りはじめた。
リスナーからのハガキの内容は、「暮れに大事なおばあちゃんが亡くなってしまった。近所のおばあちゃんで、血のつながりはないのだけれど、いてくれることがあたりまえだったから、いないってことがうけいれられない。しんと哀しみが押し寄せてくる」というものだった。
特別気のきいたコメントをするわけでもなく、「そうだったんですね。どんなにかだいじなおばあちゃんだったんでしょうね。」とつぶやいた。
それから、沈黙があった。
「ぼくにはなにもしてあげられないけれど、哀しみを消してあげることはできないけれど、哀しむことも、無理に消さなくていいんじゃないかな」
その声を聞いたとき、(いつも無理に自分を消してるのはおまえだろ)と思わないではなかったが、なんだか、あぁきっとこのハガキを書いた人は、Mくんならそんなふうに受けとめてくれると、わかっていたんだな。
この声で受けとめてもらいたかったんだなと思った。授業でだけ学生を見ている私が一番わかってなかった。
みんなのほんとの声。

 げんきんにも自分の学生自慢を致しますが、どの子の声もいい声。
大事な声の持ち主です!

 こういういい声を育てる機会が、教育の現場でいっぱいいっぱいあるといい。


○読むと声がやさしくなる本○


くっついた
三浦太郎
こぐま社/840円


おおきいちいさい
元永定正
福音館書店/735円


よかったねネッドくん
レミー・チャーリップ作/
やぎたよしこ訳
偕成社/1470円


村中李衣













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