2012.03.

「ちょっとうれしい<夫婦で読みあい>」


 北海道で、夕方から若いおとうさんやおかあさんたちが集まって、絵本の勉強会がありました。
生まれてまもない赤ちゃんも、ハイハイの赤ちゃんも、2歳、3歳のおチビさんも、小学生のおにいちゃんおねえちゃんも、みんないっしょの、にぎやかな会。

「りえさん、せっかくだから夫婦の読みあいのことを知りたいんですけど」
とリクエストがあったので、急きょ、その場にあった絵本の中から読みあいに向いているものをかき集め、あるカップルに、「妻(夫)に読んであげたい1冊」をそれぞれ選んでもらいました。
もちろん相手にはないしょで。
すると、あらら、夫婦がおんなじ絵本を互いのために選んでいるではありませんか。
なんでなんで?
選んだ理由はそれぞれ違っていましたが、それでもつまりは「ものがたりを挟んでいっしょに過ごしたい空間、いっしょにつくりあいたい時間」が見事に重なっているということ。
それに気づいて、カップル同士が顔を見合わせ、ふふふふふっ。
そして、その様子を、部屋の隅でみつめていた子どもたちも、(おとうちゃんとおかあちゃん、なにしてるのぉ)と言いながら、こそばゆそうにうふふふふっ。
さて、まずは、おとうさんがおかあさんをイスにすわらせ、いっしょうけんめい絵本を読みます。
おかあさんは、実に楽しそうにおとうさんの絵本読みをひとりじめ。
次におかあさんが、おとうさんと交代して、きれいな声で同じ絵本をおとうさんのために読みます。
イスにちょんまりとすわったおとうさんは、子どもたちの方をちらちら見やりながら、はずかしそうに聴いています。
その様子に、またまた子どもたちが、うふふふふっ。

 このカップルの読みあいの後、今度は別のカップルが佐々木マキの『はぐ』(福音館書店)をふたりで声に出して読みあいました。
すると、それまでむずかっていたお二人の赤ちゃんが、よそのおばちゃんの腕の中に身をあずけたまま、実にゆったりと幸福そうにほほえんで、ふたりの読みあいを楽しんでいます。
その姿は、愛するといういのちの原点を寿ぐ、超越した存在に見えました。

 夫婦がわが子の方を向いてあれやこれやと心を砕くこと以上に、夫婦が互いを認め合ってひとつのものがたりを生きる姿をそのままみせることの方が、ちいさい魂の栄養になるのかもしれません。

 お月さまに見守られた、ちょっとうれしい読みあいの時間でした。


村中李衣













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